『VOICE』は2002年に発行された市川拓司の恋愛小説。
ネットで公開されたこの作品は『Separation-きみが還る場所』と合わせ、延べ12万人に読まれました。
市川拓司の記念すべきデビュー作品。
ちなみに『VOICE』は『Separation-きみが還る場所』の前作であり、市川拓司の原点となっている作品でもあります。
作品の内容としては哀しく、暗めなお話。
しかし、市川拓司の原点として読んでおきたい読み応えのある小説となっています。
男女の別れを描いた哀しき恋愛小説『VOICE』(市川拓司)について、あらすじと感想、作品の魅力をネタバレを交えて紹介していきます!
目次
『VOICE』(市川拓司)の情報
作品情報
著書:市川たくじ(市川拓司)
出版社:アルファポリス
初版発行:2002年
ジャンル:恋愛
冒頭を試し読み
「悲しい映画だったわね」ぼくの隣で彼女が言った。「ああ、そうだね。とても悲しい話だった」ぼくはその時25で、彼女は24だった。二人はこの二年後に結婚することになる。ぼくは映画館の暗闇の中で一人考えていた。損なわれてしまった命について。叶うことの無かった想いについて。そして語るべき一人の女性の物語について。 『VOICE』(市川拓司)本文より
『VOICE』(市川拓司)のあらすじ
高校生の井上悟は、クラスで疎まれ嫌われながらも高校生活を過ごしていた。
そんなある日、隣のクラスである五十嵐裕子の心の声が聞こえるという不思議な体験をする。
その後、森の中で偶然出会った2人は言葉を交わし、距離を縮めるようになっていく。
高校を卒業した裕子は東京へ行き、受験に失敗した悟は地元に残ることに。
離れ離れになってしまった2人は距離だけなく、心までも離れることになってしまう。
【ネタバレあり】『VOICE』(市川拓司)の感想
ただただ哀しい小説
『VOICE』(市川拓司)はただただ哀しい小説となっています。
それは作者である市川拓司もあとがきで書いています。
「VOICE」は、徹底して悲しい小説です。幸福の予感も救いもない。親しい人間(と犬)が次々と去っていく話。心と身体を壊した男が、恋人との別れを決意する話。世界の基調は不安と悲しみであると、この小説は訴えています。 (作者あとがきより)
この小説を陰と陽で分けるとするなら、間違いなく陰でしょう。
とても哀しい小説です。
なぜ、哀しさを感じるかというと、『VOICE』には“死”がからんでいるからだと思います。
悟の弟の死、裕子の飼い犬ジョンの死、裕子の胎内の子供の死、そして裕子の死。
一緒にいたいと願いながらも、一緒になることができず、死んでしまった裕子を想うと胸が痛くなります。
「君の人生は短いものだったけれど、それでも、ひとを愛することの本当の意味を知って、たくさんの幸せを手に入れることができたんだよ。」
裕子が悟に最後に言って欲しいと言った言葉です。
「幸せ」と言った裕子の言葉が救いかもしれません。
愛すること。
愛されること。
お互い愛し合うということがどれだけ素晴らしいことなのかを強く感じました。
裕子は悟のダンナサマにはなれませんでしたが、彼女が本当に幸せであったのだと願います。
『VOICE』(市川拓司)の評判は?
『VOICE』(市川拓司)の評判・レビューを紹介していきます。
レビューサイトでのレビューをいくつかまとめると、
「誰かに愛される幸せ。誰かを愛する幸せ。登場人物の心境には深い共感を覚え、読後には昔の純粋で不器用な恋をそっと思い出させてくれます…。」
「切なく、そして痛い。何度読んでもこう感じてしまいます。」
「胸を潰されるような痛みを感じながらも、気付くともう一度手に取りページを開いてしまう、そんな一冊です。」
などやはり「悲しい」「胸が痛い」という評価が多いです。
他には「市川さんの原点的な作品」という評価もありました。
ちなみにアマゾンのレビュー点数は3.7。
個人的には3.5をあげていい作品だと思います。
『VOICE』(市川拓司)のまとめ
儚く哀しい純愛小説『VOICE』。
哀しい小説ではありますが、愛することがどれだけ素晴らしいのかを教えてくれる小説になっています。
『Separation-きみが還る場所』と共にネットで12万人の人が感動したというのも納得。
市川拓司作品の中ではあまり有名な作品ではないかもしれませんが、彼の原点となっている小説なのでぜひ読んでいただきたいです。