『シャイロックの子供たち』は2006年に刊行された池井戸潤のサスペンス小説。
全10話からなり、1話ずつ主人公が変わっていくという連作短編のような構成になっています。
銀行の支店で起こった100万円の現金紛失事件。
現金を盗った真犯人は誰なのか、失踪してしまった男は一体……。
二転、三転する犯人捜し。
事件が起きた銀行内の人間関係や様々な思いや葛藤、そして野望、秘密が暴かれていく。
ラストは思いもよらない真相が……!?というミステリー調の強い小説となっています。
銀行の支店で起きた現金紛失事件の真相に迫った『シャイロックの子供たち』について、あらすじと感想、結末の解説をしていきます!
目次
『シャイロックの子供たち』(池井戸潤)の情報
作品情報
著書:池井戸潤
出版社:文藝春秋
初版発行:2006年
ジャンル:サスペンス・ミステリー
冒頭を試し読み
参宮橋の社宅から小田急線と山手線を乗り継ぎ、五反田で東急池上線に乗り換えて約十分。春ならば花見で賑わう洗足池のひとつ手前に長原駅はある。東京第一銀行長原支店は、地下ホームからひとつだけの改札を抜けた目と鼻の先に、トレードマークの入った赤い看板を出していた。小さな店構えだが、大田区の住宅街で五十年の歴史を誇る老舗である。 シャイロックの子供たち』本文より
『シャイロックの子供たち』(池井戸潤)のあらすじ
東京第一銀行長原支店。
副支店長を務める古川は反論した部下である小山を殴ってしまう。
事件は不起訴になり小山は銀行をやめるという、険悪な雰囲気の中、行員のキャッシュボックスから現金100万円が紛失。
すぐに捜索を始めた結果、当日の日付の入った札束の帯封が女子行員のショルダーバッグの中から発見される。
バッグの持ち主である北川愛理は「自分は犯人ではない」と否定。
愛理の上司である西木はおもちゃの指紋採取セットで犯人を見つけられると言うが……。
『シャイロックの子供たち』(池井戸潤)の感想
現金紛失事件のミステリー小説
紛失してしまった現金100万円の真相、真犯人は誰なのかが気になってドキドキしながら一気に読みました。
前半のほうは割と現金紛失事件に関係ないストーリーが続きますが、西木が真犯人をつきとめた中盤あたりからはエンジンがかかったようにグッとおもしろくなります。
一体、誰?と。
まず犯人として疑われたのが女子行員の北川愛理だったのですが、愛理はそれを否定。
実際、当日の日付の入った札束の帯封をハンドバッグに入れたのは愛理ではなく、半田麻紀でした。
しかし、現金紛失事件の犯人は麻紀ではなく、愛理に対してちょっとした嫉妬と恨みを抱いていただけ……と、真犯人が一転、二転とする展開に惹きつけらます。
ミステリーだけじゃなく、人間ドラマもある
『シャイロックの子供たち』はミステリーの魅力だけでなく、人間ドラマとしての魅力もあります。
銀行員としての仕事内容はもちろんのこと、彼らの野望や仕事に対するプレッシャー、家庭など丁寧に描かれており、登場人物が深く掘り下げられていました。
特に印象に残っているのが第4話のシーソーゲーム。
第4話の主人公である遠藤は実績をあげなければ、とかなりのプレッシャーとストレスがかかりながら仕事をしていました。
その結果、ラストはぞくっとするようなホラーになっています。
遠藤は課長の鹿島を連れて、社長に会いに行くのですが、向かった先は神社の狛犬で、遠藤は狛犬をまるで人間がいるかのようにあいさつ。
そう、彼は仕事のストレスのあまり精神がイカれてしまったのです。
銀行員の仕事の大変さを実感し、そこまで追い詰めて仕事をしなければいけないのか、と仕事についても考えさせられました。
【ネタバレあり】『シャイロックの子供たち』(池井戸潤)の結末を考察
『シャイロックの子供たち』の結末を考察していきます。
ラストで真犯人は滝野であることが判明しました。
そして、西木は殺された―
かに思われましたが、新たな説が浮上します。
それは西木は連帯保証人の巨額の負債から逃れるため、死んだことにし、戸籍を変えてどこかで生きているという説。
殺されているのか、生きているのか。
明確な答えは書かれていません。
推測するしかありませんが、西木は殺されたと考えるのが妥当のような気がします。
西木は滝野の不正を暴こうとしていた。
そんな正義の塊のような西木が逃げようとするのも考えにくい。
この2つの説は様々な意見が飛び交うかと思います。
『シャイロックの子供たち』(池井戸潤)の評価・レビュー
『シャイロックの子供たち』の評価・レビューを紹介していきます。
レビューサイトでのレビューをいくつかまとめると、
「推理小説のように引き込まる感じがあり、とうとう最後まで読んでしまう魅力があります。」
「ラスト1頁までわからない!サスペンスの凝縮で面白さは群を抜いている!」
「スリル満点であっという間に読みきってしまいました。」
という絶賛する評価・レビューが多くありました。
ちなみにアマゾンのレビュー点数は4.1という高評価。
個人的にも4.0をあげていい作品だと思います。
『シャイロックの子供たち』(池井戸潤)のまとめ
スリルある展開で最後の最後まで楽しませてくれた『シャイロックの子供たち』。
ミステリーの面だけでなく、登場人物を丁寧に描いた人間ドラマも魅力的でした。
池井戸潤の裏ベスト1という評価も頷けます。
大企業を倒すような痛快さはありませんが、それとはまた別の魅力があるので、ぜひ読んでいただきたい小説!