『マチネの終わりに』は2016年に発行された平野啓一郎による恋愛小説。
2019年に福山雅治、石田ゆり子、伊勢谷友介らのキャストで映画化されました。
渡辺淳一文学賞を受賞し、『アメトーーク!』読書芸人の回で、又吉直樹と若林正恭がおすすめ本として紹介した小説でもあります。
深く構築された世界観、緻密で洗練された文章、そして切ない運命に翻弄された大人の恋愛を描いたこの小説は、最高の恋愛小説と言っても過言ではありません。
いえ、「恋愛小説」と一言で片づけられない、深海のようなどこまでも潜っていける物語です。
深く酔いしれること間違いなしの大人の恋愛小説『マチネの終わりに』について、あらすじと感想、結末をネタバレを交えて紹介していきます!
『マチネの終わりに』の情報
作品情報
著書:平野啓一郎
出版社:毎日新聞出版
初版発行:2016年
ジャンル:恋愛
冒頭を試し読み
ここにあるのは、蒔野聡史と小峰洋子という二人の人間の物語である。彼らにはそれぞれにモデルがいるが、差し障りがあるので、名前を始めとして組織名や出来事の日付など、設定は変更してある。もし事実に忠実であるなら、幾つかの場面では、私自身も登場しなければならなかった。しかし、そういう人間は、この小説の中ではいなかったことになっている。彼らの生を暴露することが目的ではない。 『マチネの終わりに』本文より
『マチネの終わりに』のあらすじ
クラシック・ギタリストの蒔野聡史は、「デビューニ十周年記念」として、例年にない数のコンサートをこなし、ツアーの最終公演日を迎えた。
終演後、蒔野はフランスのRFP通信の記者をしているという小峰洋子と出会う。
洋子は蒔野が大好きな『幸福の硬貨』の映画監督、イェルコ・ソリッチの娘でもあった。
会場を出る時間が迫っていたが、二人の会話は尽きる気配がなく、蒔野は洋子を打ち上げに誘う。
その打ち上げの席で蒔野と洋子は、深夜二時半まで二人で話し続けるほど、気が合い、そして、惹かれ合ったが、洋子には経済学者をしているアメリカ人のフィアンセがいた。
蒔野と洋子は連絡を取り合うことを約束して、関係者と一緒に店を出て、蒔野は洋子をタクシーに乗せて別れることに。
この出会いの長い夜は、特別なものとして、二人の間で何度となく回想されることになる。
『マチネの終わりに』のタイトルの意味
タイトルになっている『マチネ』とは舞台で昼公演のことを指すそうです。
舞台興行の中でも、特にミュージカルの公演でよく使われる「マチネ」「ソワレ」。
語源はフランス語で、
「マチネ」(matinee)は朝・午前のこと、
「ソワレ」(soiree)は夕方・陽が暮れた後の時間を指す言葉です。
この言葉が劇場で使われるようになり、
昼公演をマチネ、夜公演をソワレと呼んでいます。
訳すとなると、『昼公演の終わりに』ってことですね。
昼公演に何があるのか。
後に詳しく解説しますが、本作を読み終わると、タイトルの意味がよく分かります。
【ネタバレあり】『マチネの終わりに』の感想
運命に翻弄された切ない大人の恋愛
『マチネの終わりに』は切ない大人の恋愛小説となっています。
では、一体何が切ないのかと言うと、お互いに激しく惹かれ合いながらも、とある運命のイタズラにより、2人は誤解を生んだまま離れてしまうというストーリー。
この運命のイタズラが本作の大きな役割を担っています。
簡単に説明すると、蒔野がタクシーに携帯電話を忘れてしまい、それをマネージャーの三谷がタクシー会社へ取りにいくのですが、三谷は蒔野を独占したいがために、洋子へ「もう会えない」という嘘のメールを送ってしまうこと。
そうして2人は誤解を生んだままにすれ違い、別々の人生を歩むことになり、洋子はフィアンセだったリチャードと結婚(後に離婚)し、蒔野は三谷と結婚することに。
そして、2人とも子供ができます。
お互いに激しく惹かれ合いながらも、運命のイタズラによるすれ違いで離れることになってしまった2人の人生に切なさを感じてしまいます。
読んでいる時はもどかしい気持ちでいっぱい。
読者は2人が誤解していることを知っていますが、もちろん蒔野と洋子は分からない。
そこがとても切ないというか、苦しいというか……。
結局、この誤解は解けることになるのですが、読んでいる時に大きなもどかしさ(切なさ、苦しみ)を味わっていた分、三谷の告白には強いカタルシスを得られました。
恋愛というジャンルを超えた深い小説
冒頭でも書きましたが、『マチネの終わりに』は「恋愛小説」と一言で片づけられない、深海のようなどこまでも潜っていける内容の物語です。
それはなぜか。
まず設定が秀逸です。
蒔野はデビューニ十周年を迎える人気のクラシック・ギタリスト、洋子は海外で活躍するジャーナリストであり、映画監督の娘(他にも付随する細かい設定はいろいろあります)。
2人の年齢がアラフォーということで、それなりに蓄積してきた過去があり、物語の舞台は東京、パリ、ニューヨーク、バグダッドと世界を舞台にしています。
これらの設定が『マチネの終わりに』を深く味わいのあるストーリーにしているのは間違いないと思います。
そしてその設定を基盤にし、蒔野と洋子の恋愛、仕事の苦悩、葛藤、家族の問題、罪、未来と過去について、など多くの要素を取り入れていることで深い小説になっていました。
テーマ「過去は変えられる」
『マチネの終わりに』では”未来と過去“が大きなのテーマになっていると思います。
過去は変えられる。
本作の中で何度も出てくる重要なキーワードになっています。
人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?
蒔野のセリフです。
これがストーリーのなかで持つ意味とは?
洋子と洋子の父、ソリッチとの関係もそうですが、やはり蒔野と洋子の関係が大きいでしょう。
蒔野と洋子は、「必要とされなくなった」というお互いに誤解を持ちながら生きてきましたが、三谷の告白をきっかけに五年半という歳月が経ち、2人の間の過去は変わった。
あの夜の真相を知ったことで、過去が変わったのです。
決してお互いを必要としなくなったのではなく、本当はお互いを強く愛していた、と。
最初は蒔野のセリフがピンとこなかったのですが、読了したことでその意味がよく分かり、胸に突き刺さりました。
『マチネの終わりに』の名言
ここでは『マチネの終わりに』の名言を紹介していきます。
・人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。
・恋の効能は、人を謙虚にさせることだった。年齢とともに人が恋愛から遠ざかってしまうのは、愛したいという情熱の枯渇より、愛されるために自分に何が欠けているのかという、十代の頃ならば誰もが知っているあの澄んだ自意識の煩悶を鈍化させてしまうからである。
・美しくないから、快活でないから、自分は愛されないのだという孤独を、仕事や趣味といった取柄は、そんなことはないと簡単に慰めてしまう。そうして人は、ただ、あの人に愛されるために美しくありたい、快活でありたいと切々と夢見ることを忘れてしまう。
・世界に意味が満ちるためには、事物がただ、自分のためだけに存在するのでは不十分なのだ
・この世界は、自分と同時に、自分の愛する者のためにも存在していなければならない
愛についての素敵な名言が多いですね。
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【ネタバレあり】『マチネの終わりに』の結末は?
『マチネの終わりに』のラストは五年半ぶりの再会で幕を閉じます。
とても爽やかというか、読後感の良い、余韻に浸れるような感動的な最後になっていました。
『マチネの終わりに』というタイトルの意味とは、“再会=蒔野と洋子の過去が変わった“、ことだったのですね。
さて、その後の2人はどうなったのでしょうか。
蒔野と洋子はお互いに微笑むだけで終わってしまうので、その後の展開は描かれていません。
蒔野と洋子は付き合うのか、それとも、そのままの関係でいるのか……。
おそらく、そのままの関係でいると思いますし、ラストの1回きりだけで、完全に関係を断ち切るわけではないと思いますが、2人だけで会うのはやめてしまうのではないかという気がします。
洋子はジュネーヴで勤務し始めていますし、蒔野には家庭があり子供もいる。
蒔野が家庭を壊してまで洋子に行くとは考えにくいですし、何より蒔野は早苗を愛しているので、早苗のことを考え2人だけで会うのはこれきりにするのではないかと。
すれ違っていた過去が変わっただけでも蒔野と洋子は良かったのではないかと思います。
だからこそ、とても切ないのですが……。
『マチネの終わりに』の評価・レビュー
『マチネの終わりに』の評価・レビューを紹介していきます。
レビューサイトでのレビューをいくつかまとめると、
「ゆっくり時間が流れていくなかで途中から急展開に驚き、引き込まれていきました。世界情勢も織り込まれ、とてもリアルに感じられます。」
「一人の女性の嫉妬から人生を狂わされて悲しいです。この小説は大変美しい文章で感動です。」
「ピュアな大人の恋に、一気に読んでしまいました。余韻がいいですね。」
という評価・レビューがありました。
他には「文章が美しい」「圧倒的な語彙と多彩な比喩」という文章面についての評価も高かったです。
ちなみにアマゾンのレビュー点数は4.0。
個人的には4.5をあげていい作品だと思います。
『マチネの終わりに』のまとめ
美しい文章と深い物語で魅了した『マチネの終わりに』。
切ない大人の恋愛小説でした。
過去は変えられる。
未来と過去に関するテーマでも、とても胸に残りました。
これほど深い恋愛小説に出会うことはなかなかないですし、とてもおもしろい小説なのでおすすめです!
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