『勝手にふるえてろ』は、2010年に発行された綿矢りさの恋愛小説。
織田作之助賞にノミネートされ、2017年には主演に松岡茉優、北村匠海、渡辺大知、石橋杏奈のキャストで映画化されました。
内容としては恋愛経験なし、26歳の処女でもある江藤良香が片思いの相手と自分を好きだといってくれる男の間で揺れ動くという恋愛小説。
綿矢りさの独特な言葉遣いのユーモアや個性的でちょっとこじらせたキャラのヨシカを描いたラブコメ小説となっており、笑えるところも多くあります。
こじらせ女子ヨシカのちょっぴり暴走恋愛小説『勝手にふるえてろ』について、あらすじと感想、作品の魅力をネタバレを交えて紹介していきます!
目次
小説『勝手にふるえてろ』 の情報
作品情報
著書:綿矢りさ
出版社:文藝春秋
初版発行:2010年
ジャンル:恋愛
冒頭を試し読み
とどきますか、とどきません。光かがやく手に入らないものばかり見つめているせいで、すでに手に入れたものたちは足元に転がるたくさんの屍になってライトさえ当たらず、私に踏まれてかかとの形にへこんでいるのです。とどきそうにない遠くのお星さまに向かって手を伸ばす、このよくばりな人間の性が人類を進化させてきたのなら、やはり人である以上、生きている間はつねに欲しがるべきなのかもしれない。『勝手にふるえてろ』本文より
小説『勝手にふるえてろ』のあらすじ
経理の仕事をするOL、26歳一人暮らし、恋愛経験なしの江藤良香。
ヨシカは中学2年生に好きになったイチ(一宮)に26歳の今までずっと片思いをしており、過去に交わしたイチとの短いやりとりを思い出しては脳内恋愛する日々を過ごしていた。
そんなある日、営業課との交流会で出会った二(霧島)にヨシカはアプローチされる。
週末の2回目のデートのあと、二(霧島)から告白されるヨシカ。
しかし、ヨシカは「よく考えてみます」と明確な返事をしなかった。
小説『勝手にふるえてろ』 の感想
妄想女子のヨシカのキャラがいい
『勝手にふるえてろ』の一番の魅力は主人公、江藤良香のキャラクターです。
ヨシカの特徴をあげると、
- 26歳、恋愛経験なし、処女
- 彼氏なし、貯金なし、1人暮らし
- 中学2年生からイチをずっと片思い
- アニメオタク
- 最近ハマっているのは、ウィキペディアで絶滅した動物を調べること
と、こんな感じ。
中学のときは、視野見という、黒板やら掃除道具入れのちりとりやらを眺めているふりをして、ほんとは視界の隅に入っているイチに意識を集中させる、という技をあみだし、イチを主役にした一話完結型のストーリーマンガ「天然王子」を描くという個性っぷり。
そんなこじらせ系女子のヨシカの恋心が揺れ動いていくさまが滑稽で面白い!
好きだけど、自分を好いてくれない人か、好きじゃないけど、自分を好いてくれる人か。
愛されるのと愛するのではどちらが幸せか。
理想と現実のはざまでもがくヨシカがうまく描けていました。
女性は「分かる!」と共感できるところもあるでしょうし、男性は女の世界や女性の考えていることが分かったりするので、ぜひ読んでいただきたい!
特に興味のない男からアプローチされると女はこんなこと考えているのかと胸の内を窺い知ることができます。
綿矢りさのユーモアが絶妙
『勝手にふるえてろ』は綿矢りさのユーモアが絶妙でした。
例えば、ニについて描写した表現。
二はスープ系の体臭、飛行機で出される油の浮いたコンソメスープと同じにおいがする。つねにだしが効いている。前世がおでんの具だったのかもしれない。お腹が空いているときにはいいかもしれないけれど、少なくとも抱きしめられたいとは思えない。
と、こういったユーモアのある表現がたくさんあります。
特に面白いのはヨシカの心の中の暴走。
処女がニにバレていた時の心境や絶滅した動物やイチについて語るヨシカはイタいんだけど、それがなんだか愛しくて面白おかしく読むことができました。
小説『勝手にふるえてろ』 のタイトルの意味とは?
『勝手にふるえてろ』
綿矢りさらしいネーミングですが、『勝手にふるえてろ』の意味とはなんでしょうか。
そのヒントは作中にあります。
イチはしょせん、ヒトだもの。しょせん、ほ乳類だもの。私のなかで十二年間育ちつづけた愛こそが美しい。イチなんか、勝手にふるえてろ。
どうして好きになった人としか付き合わない。どうして自分を好きになってくれた人には目もくれない。自分の純情だけ大切にして、他人の純情には無関心だなんて。ただ勝手なだけだ。付き合ってみて、それでも好きになれないならしょうがない、でも相手の純情に応えて試してみても、いいじゃないか。
私はイチからもらった本当に人を好きになる感動を、彼に与えることはできない。
イチに名前を覚えられていなかったと分かるあと、つまり失恋のあとにある記述。
また「身体が震えてくるような感動」という表現もあります。
「勝手にふるえてろ」の意味は「勝手に誰かを好きにでもなってろ」というイチを突き放す言葉であり、決別の言葉であるように思います。
つまり、ヨシカは“愛すること”をやめ、“愛されること”を選んだという意味が込められているのではないかと。
【ネタバレあり】小説『勝手にふるえてろ』のラストを考察
『勝手にふるえてろ』のラストでは今までニという愛称でしかなかった二の霧島という本当の名前が明かされ、ヨシカは「霧島くん」と呼びます。
それはなぜなのでしょうか。
ヨシカが二を受け入れ、いままでと違う愛のかたち、つまり、一方通行の思いを捨てたことを意味していると思います。
さあ私は、愛してもいない人を愛することができるのか?ううん違う、私はいままでとは違う愛のかたちを受けとめることはできるのか?
愛するほうがいいのか、愛されるほうがいいのか、人によって考え方は違いますが、ヨシカは愛されるほうを選んだというわけです。
それまでイチの下でしかなかった二が霧島という1人の男に変わった瞬間。
「全然彼のキャラに似合わないしぐさ、でもそれは私の好きなやさしさに似ていた」という最後の一文にそれが詰まっていると思います。
小説『勝手にふるえてろ』の評価・レビュー
『勝手にふるえてろ』の評価・レビューを紹介していきます。
レビューサイトでのレビューをいくつかまとめると、
・「恋愛小説として、非常によく出来た傑作だと思う。」
・「綿矢さんの人に対する絶妙な、的を射てるような表現が、読んでいて本当凄いなって思いました!」
・「これはまぎれもなく見事な恋愛小説だと思います。」
という評価・レビューがありました。
他にも「こじれっぷりが実に楽しい」というヨシカのこじらせぶりを評価する声も多くあります。
ちなみにアマゾンのレビュー点数は3.5。
個人的には4.0をあげていい作品だと思います。
小説『勝手にふるえてろ』 のまとめ
絶妙なユーモアと高い文章力で描かれた『勝手にふるえてろ』。
ヨシカのこじらせぶりが面白く、最後まで惹きつけらました。
ラブコメ小説としても魅力があります。
女性にも男性にも読んで欲しい、そんな恋愛小説。