『架空通貨』は2000年に刊行された『M1』を改題した池井戸潤の小説。
江戸川乱歩賞受賞第1作となっています。
闇のカネによって、人や企業、銀行までもが支配された街、田神町を舞台にその真相に追っていくという骨太な社会派サスペンス・ミステリー作品。
果たして辛島は田神亜鉛という巨大企業の陰謀を暴けるのか。
闇のカネ、田神亜鉛に隠された真実とは!?
『架空通貨』というタイトルだけに、経済や金融についての専門的な話が出てきますが、読みごたえは抜群。
闇のカネの真相に迫るミステリー作品『架空通貨』について、あらすじと感想、作品の魅力をネタバレを交えて紹介していきます!
目次
『架空通貨』(池井戸潤)の情報
作品情報
著書:池井戸潤
出版社:講談社
初版発行:2000年
ジャンル:サスペンス・ミステリー
冒頭を試し読み
午後四時頃から今宵にかけ、街を濡らしたのは蜘蛛の糸を垂らしたような小糠雨だった。少し気温が下がったのか、いま窓から見える住宅街には霧がたちこめ、輪郭も朧な屋根の上空に星は見えない。遠くの鉄塔で明滅をくり返しているライトは、音もなくふわりと点灯したかと思うと、すっと消える。オンとオフしかない単調なリズムに合わせ、霧は様々な様態にその姿を変える。『架空通貨』本文より
『架空通貨』(池井戸潤)のあらすじ
元商社マンの社会科高校教師、辛島のもとに生徒である黒沢麻紀がある夜、会いにきた。
後に辛島は麻紀の父親の経営する会社が不渡りをだし、経営に行き詰まっている事実と麻紀が家を出てしまったという事実を麻紀の母親の電話より知る。
ある日、麻紀の父親の経営する会社の資料が見つかったということで、辛島と麻紀の母親は黒沢家で落ち合うことに。
そこで辛島は麻紀の力になろと麻紀の父親の会社、黒沢金属工業の資料を調べはじめ、田神亜鉛株式会社という会社名が入った“商品券”を見つける。
麻紀を探し出すため、そして田神亜鉛について調べるため、田神亜鉛株式会社へ向かうべく車を走らせる辛島。
見えてくる黒々とした鋼鉄の鎧で武装した要塞のような亜鉛精錬所。
辿り着いた亜鉛の町では、“田神札”という闇のカネが流通していた。
『架空通貨』(池井戸潤)の感想
骨太な社会派サスペンス・ミステリー
『架空通貨』は一言で言ってしまえば、骨太な社会派サスペンス・ミステリーでした。
田神札という闇のカネ、田神亜鉛社長、安房正純の陰謀、その裏で絡んでいる暴力団企業、加賀翔子の正体と企み。
隠された真相を暴いていこうとする辛島。
様々な人間の企みや裏切りなどが絡みあっていて、非常に骨太で読み応えのある作品となっています。
裏にはまたさらに裏があり、真相が気になってどんどんページをめくってしまうというのが『架空通貨』の魅力であり、ラスボス安房正純との対決にも注目。
かなりページ数はありますが、一気に読めてしまいます。
池井戸作品のなかでは重厚というか、重めの雰囲気がある小説でした。
残念な点は専門的過ぎること
『架空通貨』はおもしろいのですが、残念な点があります。
それは話が専門的過ぎること。
マネーロンダリングの仕組み、金融の仕組み、私募債、社債、不渡り……。
金融関係や経済について知識がある人は特に問題はありませんが、あまり知識がないと小難しい小説になってしまうかもしれません。
一応、説明はあるのですが、それでも結構、頭を使いますし、途中「?」になってしまうこともあります。
あまり気軽に読めるような小説ではないかも。
「経済なんてチンプンカンプンだ!」という人は特に。
金融の仕組み等のややこしさを除けば、非常におもしろい社会派サスペンス・ミステリー小説なのですが……。
しかし、逆に言えば金融や経済の仕組みの勉強になると言えます。
金融の関係の勉強がしたいとか、金融関係に興味がある人は小説を楽しみながら勉強もできるので、おすすめ。
『架空通貨』(池井戸潤)の評価・レビュー
『架空通貨』(池井戸潤)の評価・レビューを紹介していきます。
レビューサイトでのレビューをいくつかまとめると、
「架空通貨の題に引かれて読みましたが、展開がハラハラの連続で、経済の勉強にもなりました。」
「ドキドキするストーリー展開が良かった!」
「内容も池井戸作品らしく、金融にまつわる話で、どんどん続きを読みたくなるようなストーリー展開でした。」
という評価・レビューがありました。
低評価なレビューとしては、「現実味がない」というレビューがちらほら。
ちなみにアマゾンのレビュー点数は3.6。
個人的には3.5の作品だと思います。
『架空通貨』(池井戸潤)のまとめ
『架空通貨』は壮大なストーリーを背景に登場人物たちの思惑が絡んだ骨太な社会派ミステリー作品になっていました。
裏にはまた裏があり、先が気になる!
金融関係の話が小難しいという難はありますが、それでも楽しめる作品になっています。
『架空通貨』では骨太なサスペンス・ミステリーをお楽しみください。