『火花』はお笑い芸人ピース又吉直樹の純文学である中編小説。
本作は芥川賞を受賞し、芸人としては初の快挙を成し遂げました。
累計発行部数は300万部を突破するという売り上げを記録し、芥川賞受賞作品として歴代第1位というベストセラーになっています。
まさに社会現象を巻き起こしたといっても過言ではない小説。
さらに、林遣都、波岡一喜、門脇麦のキャストでネットフリックス配信ドラマとして映像化され、2017年には菅田将暉、桐谷健太、木村文乃のキャストで映画化されました。
ちなみに映画の監督は吉本興業所属の板尾創路。
売れないお笑い芸人・徳永と先輩芸人・神谷を描いた人間ドラマ『火花』(又吉直樹)について、あらすじと感想、作品の魅力をネタバレを交えて紹介していきます!
目次
『火花』(又吉直樹)の情報
作品情報
著書:又吉直樹
出版社:文藝春秋
初版発行:2015年
ジャンル:ドラマ
冒頭を試し読み
大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。熱海湾に面した沿道は白昼の激しい陽射しの名残りを夜気で溶かし、浴衣姿の男女や家族連れの草履に踏ませながら賑わっている。沿道の脇にある小さな空間に、裏返しにされた黄色いビールケースがいくつか並べられ、そこにベニヤ板を数枚重ねただけの簡易な舞台の上で、僕達は花火大会の会場を目指し歩いて行く人達に向けて漫才を披露していた。 『火花』本文より
『火花』(又吉直樹)のあらすじ
売れないお笑いコンビ・スパークスの徳永は、先輩芸人・あほんだらの神谷に熱海の花火大会の営業で出会う。
天才肌である神谷に惹かれ、徳永は神谷の弟子にしてもらうことに。
しかし、神谷はそこでひとつだけ条件を出す。
それは「俺の伝記を作って欲しいねん」という願いだった。
その日から神谷との日々をノートに書き始めた徳永は、神谷と過ごす時間が増えていく。
「笑いとは何か」を追求する徳永と神谷であったが……。
【ネタバレあり】『火花』(又吉直樹)の感想と考察
決して話題性だけではない
『火花』は話題性だけで売れ、芥川賞をとったという声もあります。
確かにそれもあるでしょう。
無名の新人作家が書いた小説よりも、人気お笑い芸人が書いたとなったほうが絶対売れるはず。
しかも芥川賞をとったらといえばなおさら。
しかし、『火花』は決して話題性だけではありません。
文章力は歴代芥川賞作家と遜色ないし、お笑い芸人という経験を生かしたリアリティあるストーリーは読みごたえあります。
そのなかでも彼のお笑いに対しての考え方や、漫才師としての在り方、人間とは何か、という考えをうまくストーリーに取り入れながら描いたのが素晴らしかったと思います。
正直な感想、ストーリーはあまりおもしろくありませんが、破天荒な神谷という人物をつくりだした点は良かったです。
笑いの哲学がつまった小説
『火花』は2回ほど読みましたが、改めて感じるのは「笑いとは何か」「漫才師とは」を追求した小説だなということです。
作者がピース又吉だからということでしょうが、彼なりのお笑い哲学を詰め込んだのだなと思いました。
その哲学をを端的に表しているのが、P151。
一部、抜粋してみます。
臆病でも、勘違いでも、救いようのない馬鹿でもいい、リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑める者だけが漫才師になれるのだ。
これは実体験からくるものなのでしょう。
僕らはテレビや舞台で漫才を披露するお笑い芸人の姿しか知りません。
そこで判断するのは面白いか、つまらないか。
しかし、裏では彼らの努力や苦悩、お笑いに対しての熱意や夢。
そして、酷評される恐怖や誰も笑わない恐怖もあったのです。
それはお笑い芸人だけでなく、表舞台に立つ人は皆もつ想いなのだと思います。
『火花』はお笑い芸人に対しての見方が変わる小説です。
【ネタバレあり】『火花』(又吉直樹)の最後を考察
『火花』の最後は衝撃的でした。
まさかまさかのラスト。
その衝撃的な最後とは、借金まみれになって逃亡していた神谷が徳永と久しぶりに再会した時、神谷は笑いをとるため、胸がFカップになるほどシリコンを入れて巨乳になっていたというラスト。
予想だにしないラストです。
これは何を言いたかったのでしょう。
この最後は“間違ったお笑い”を指摘したのではないでしょうか。
つまり、人の身体的特徴や差別的発言をして笑いをとるのはナンセンスだといいたかったのだと思います。
人をバカにして、辱めて笑いをとるのでなく、「人を笑わせるには皆が幸せになるお笑いをしろ」ということなのかなと思いました。
こういった笑いが問題となり、ニュースになったこともありましたね。
ピース又吉の笑いに対する考えがここでも表われているといえます。
『火花』(又吉直樹)のレビュー・評判
『火花』(又吉直樹)のレビュー・評判を紹介していきます。
レビューサイトでのレビューをいくつかまとめると、
「理屈抜きで私は泣いたし、笑ったしで、結構心を動かされる部分が多かったので、最後まで一気に読むぐらい面白かったです。」
「お笑いについて、自分の好きなものについて、とことん突き止めることがどういうことなのか深く考えさせられる作品です。」
「あらゆる人が自分を重ね、改めて自分の生き方を考えさせられる素晴らしい作品だと思います。」
というレビュー・評判がありました。
全体的なレビューを見てみると、賛否両論と言った感じ。
高い評価もありますが、「全然大した作品じゃない」「芥川賞を取らせるのは早かった」という低評価も多くあります。
ちなみにアマゾンのレビュー点数は3.6。
個人的には3.5をあげていい作品だと思います。
『火花』(又吉直樹)の名言
ここでは『火花』で出会った名言を紹介します。
-
つまりな、欲望に対してまっすぐに全力で生きなあかんねん
-
レヴェルってなに?土台、俺達は同じ人間やろ?間違ってる人間がおったら、それ面白くないでって教えたらな
-
人を傷つける行為ってな、一瞬は溜飲が下がるねん。でも、一瞬だけやねん。そこに安住している間は、自分の状況はいいように変化することはないやん。他を落とすことによって、今の自分で安心するという、やり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けてると思うねん。可哀想やと思わへん?あいつ等、被害者やで
-
生きている限り、バッドエンドはない。僕達はまだ途中だ。これから続きをやるのだ。
以上、『火花』で出会った名言でした。
結構、哲学的な名言が多いですね。
『火花』(又吉直樹)のまとめ
又吉直樹の芥川賞受賞作『火花』。
彼自身をモデルにしたと思われる本作は、芸人を生かしたリアリティさがあって良かったです。
ピース又吉の“お笑い観”が詰まった小説でもありました。
夢をもっているけど、報われない人におすすめしたい小説です。
もちろん、芸人を目指している人にもおすすめ。
あわせて読みたい又吉直樹の小説
映画版『火花』の記事はコチラ 続きを見る
映画『火花』の【あらすじ・感想】気になる評価や結末は?